誰の声で、私たちは決めている? ヤマハ発動機株式会社と考える、インクルーシブリーダーシップと意思決定

誰の声で、私たちは決めている? ヤマハ発動機株式会社と考える、インクルーシブリーダーシップと意思決定

目次

「多様な人材がいる」ことと、「多様な視点が意思決定に活かされている」ことは、同じでしょうか。

企業のDE&I推進が広がる中、採用や制度整備によって組織の多様性を高める取り組みは増えてきました。一方で、実際の日々の会議や商品開発、事業の意思決定を振り返ったとき、そこにいる人たちの多様な経験や視点は、本当に活かされているでしょうか。

たとえば、新しい商品について議論するとき。

  • 誰が「課題」を決めているでしょうか。
  • 誰がアイデアを出しているでしょうか。
  • そして、最終的に誰の声をもとに意思決定しているでしょうか。

当事者へのインタビューを実施したり、ユーザーの声を聞いたりしていても、その声が意思決定のプロセスに入っていなければ、「多様な声を聞いた」だけで終わってしまうことがあります。

今回SOLITでは、ヤマハ発動機株式会社(以下、ヤマハ発動機)の皆さんと、「多様性を増やす」ことから、「多様性を意思決定に活かす」ことへをテーマに、インクルーシブデザインと参加型デザイン(Participatory Design)を体験するワークショップを実施しました。

この記事では、その実践と、参加者の皆さんに生まれた変化、そしてそこから見えてきた「インクルーシブリーダーシップ」について紹介します。


「多様性がない」のではなく、「活かされていない」のかもしれない

今回のプログラム全体で掲げられていたテーマの一つが、「『多様性がない』のではなく、『活かされていない』瞬間がどこで生じているのかに着目し、ヤマハ発動機社におけるインクルーシブリーダーシップに必要な要素を整理・言語化する」というものでした。

参加したのは、4つの事業領域から集まった14名。そのうち4名が管理職で、事業企画、マーケティング、開発・設計、営業、先行開発、新規事業など、異なる立場で日々の意思決定に関わる社員の方々です。

特に開発・設計などに携わる参加者にとっては、「多様性」や「DE&I」を日常業務のテーマとして考えること自体が、必ずしも多くはないと思います。そこでSOLITが今回目指したのは、DE&Iについての知識を増やすことではありません。

普段自分たちが行っている「意思決定」を、多様性という視点から捉え直してみること。

そのために、インクルーシブデザインと参加型デザインという2つのアプローチを、実際に比較しながら体験するプログラムを設計しました。


「声を聞く」から、「決める責任と権利を共有する」へ

今回のワークショップでは、「参加」そのものの意味を考えるために、インクルーシブデザインと参加型デザインという2つのアプローチを、同じテーマで体験しました。SOLITでは、これまで先進的な技法として実践されてきた「インクルーシブデザイン」に加え、「参加型デザイン」の推進を提唱しています。

インクルーシブデザインでは、商品やサービス、環境などをつくる過程で、これまで十分に想定されてこなかった人や、意思決定の場に参加する機会が限られてきた人の経験に目を向けます。SOLITでは、インクルーシブデザインを、そうした取りこぼされがちな人の経験から学び、より広い人に役立つ解を導く実務として捉えています。一方で、参加型デザインは、当事者・意思決定者・専門家が対等に座り、過程の公平をつくるために力を発揮する技法です。

どちらも、その活用方法によって成果は大きく異なります。重要なのは、単に多様な人に意見を求めることではなく、「誰が、どのように意思決定に参加しているのか」「決める責任と権利がどのように共有されているのか」を考えることです。

今回の研修では、両者の優劣を決めるのではなく、同じテーマを異なる方法で体験し、その過程で参加者や議論にどのような違いが生まれるのかを比較しました。


「誰にとっても使いやすいオフィスとは?」

今回のケースとして設定したのは、

「誰にとっても使いやすいオフィスとは?」

という問いです。オフィスは多くの参加者にとって身近な存在です。一方で、身体、認知特性、言語、文化など、異なる経験を持つ人によって「使いやすさ」の意味は大きく変わります。今回は、視覚障害、ニューロダイバージェンス、外国籍として日本で暮らす経験、子育てなど、オフィスや働く環境において異なる課題を経験してきた3名にも参加いただきました。 ワークショップでは、最初から異なる課題を経験してきた参加者を議論に入れるのではなく、段階を分けました。

STEP 1|まず、自分たちだけで考えてみる

最初のグループワークでは、ヤマハ発動機社の参加者だけで、「誰にとっても使いやすいオフィスとは?」を考えました。まずは、自分たちが持っている経験や知識を使って、「使いやすさ」を自由に想像します。ここではあえて、3名の参加者は参加しません。この段階をつくったことで、その後の議論と比較した際に、自分たちは誰を想定していたのか。何を「課題」だと思っていたのか。を振り返ることができます。

STEP 2|Inclusive Design ― 当事者の経験から考える

続いて、SOLITからDE&Iとインクルーシブデザインについてのインプットを行った後、異なる経験を持つ3名の参加者が各グループに加わりました。

ただし、今回参加した3名は「視覚障害者代表」「ニューロダイバージェント代表」「外国人代表」と特定の属性を「代表して意見を伝える人」ではありません。それぞれが自身の経験や専門性を持ちながら、他の参加者と同じように、問いを考え、意見を出し、議論に参加する一人のメンバーです。

ここでは、それぞれの経験や視点を聞きながら、もう一度「誰にとっても使いやすいオフィスとは?」を考えます。最初に参加者だけで考えたときには見えていなかった課題はあるのか。誰を無意識に「オフィスを使う人」として想定していたのか。異なる経験との対話を通じて、自分たちの前提そのものを捉え直していきました。

STEP 3|Participatory Design ― 当事者も「決める側」になる

STEP 2では、自身の経験について問いを受け、そこから議論を広げる役割だった3名も、STEP 3では参加者と同じように、問いを立て、意見を出し、アイデアを選び、意思決定に関わります。「経験を提供する人」として参加することと、「決める人」として参加すること。その違いによって、議論のプロセスやアウトプットに何が起こるのかを体験しました。

最後には、

  • 自分たちだけで考えたとき
  • 当事者の経験を取り入れたとき
  • 当事者も意思決定に参加したとき

で、何が変わったのかをワークシートを使って振り返りました。

 

変わったのは「答え」だけではなく、「問い」だった

参加者の振り返りで特に印象的だったのは、当事者が入ることで、新しい解決策が出たということだけではありませんでした。それ以上に、「何を課題と捉えるか」そのものが変わったという気づきです。参加者からは、こんな声がありました。

同じ『オフィス改善』でも、当事者がどの段階で関わるかによって、解決策だけでなく、そもそも何を課題と捉えるかが変わるのだと気づいた。

たとえば、参加者だけでオフィスを考えていたときには、座席やコミュニケーションなどに議論が向いていたものが、視覚障害のあるメンバーとの対話を通じて、動線上に置かれたものや、物の位置が変わること、空間のゾーニングなど、これまで見えていなかった論点が現れました。これは単に「知らなかった知識を教えてもらった」ということとは少し違います。

自分たちだけで考えていたときには、そもそも問いとして存在していなかったことが、他者と一緒に考えることで初めて見えてきた。そこに、共創する意味があります。

「配慮」から、「価値をともにつくる」へ

参加者の振り返りからは、DE&Iに対する捉え方の変化も見られました。研修前には、「マジョリティがマイノリティに配慮すること」というイメージを持っていた参加者から、「様々な視点や声が、新たな価値創造につながる」という声がありました。

また、

少数の人の困りごとは特別対応ではなく、多くの人にとっての使いやすさや、新しい価値につながる可能性がある

という振り返りも。

これは、SOLITがインクルーシブデザインで大切にしている考え方の一つです。
インクルージョンは、「誰かのために特別に優しくすること」ではありません。

これまで参加しづらかった人も参加できる状態を設計すること。

そして、これまで意思決定から取りこぼされていた経験が入ることで、組織やプロダクトが見落としていた課題や可能性が見えることがあります。DE&Iは人権に関わるテーマです。同時に、誰が参加でき、誰の視点を意思決定に反映できるのかという、組織運営や事業そのものにも関わるテーマでもあります。

インクルーシブリーダーシップとは、「誰の声で決めているか」を問い続けること

今回、私たちにとって特に興味深かったのは、参加者がインクルーシブデザインの体験を、自分自身のリーダーシップや日々の意思決定へと置き換え始めたことでした。

ある参加者は、

リーダーシップとは『上から見る』『俯瞰する』ことが大事だと思っていたが、『中に入る』『関わる』というやり方もあるのか、と感じた。

と振り返っています。

他にも、

誰の視点で問いを立て、誰の声をもとに意思決定しているのか

『正しい』『効率的』と判断していることは、誰の前提に立った正しさなのか

といった問いが生まれました。インクルーシブリーダーシップとは、単に「多様な人に優しいリーダー」であることではありません。

SOLITは、その一つの重要な要素として、

  • 誰が参加できているのか。
  • 誰の声が聞こえていないのか。
  • そして、その声が実際の意思決定にどの程度影響しているのか。

を問い続けることがあると考えています。形式上「意見はありますか?」と聞いていたとしても、発言できる環境がなければ、多様な意見は意思決定には入りません。逆に、立場や経験の異なる人が、自分の意見を持って意思決定に参加できる状態をどうつくるのか。それは、組織に多様な人材がいることとはまた別の課題です。

そして残った、「では、実務ではどうする?」という問い

もちろん、4時間のワークショップですべての答えが出たわけではありません。むしろ、理解が進んだからこそ、新しい問いも生まれました。

「全員の声を取り入れていたら、意思決定が遅くならないか?」
「時間、コスト、スピードとどう両立するのか?」
「当事者には、どの段階から参加してもらうべきなのか?」
「実際、どこまで取り組めばいいのか?」

ある参加者は、

DE&Iは“優しさ活動”ではなく、現場の力を取りこぼさないためのマネジメント技術と現時点は整理。ただ、『何のためのDE&Iなのか?』が現場目線に落とすとまだ教科書的でしっくりきていない。

と率直に振り返りました。私たちは、こうした問いが残ることを、研修の「失敗」だとは考えていません。むしろ、「DE&Iは大切」という抽象的な理解から、「では自分たちの仕事ではどう実践する?」という具体的な問いへ進んだとも捉えられます。

インクルーシブデザインは、すべての人のニーズを無条件に採用することでも、意思決定を無限に遅くすることでもありません。限られた時間や予算、事業上の制約がある中で、誰の声を、どのタイミングで、どのような形で意思決定に取り入れるのか。それを考え続けること自体が、実践の一部です。

研修で「分かったつもり」にならないこと

今回参加した当事者メンバーからも、重要なフィードバックがありました。たとえば、ニューロダイバーシティについてほとんど知識がない場合、「何を質問すればいいのか分からない」ということ自体が起こります。

しかし、限られた研修時間の中で、障害、ニューロダイバーシティ、外国籍、子育て、ジェンダーなど、あらゆる経験について網羅的に理解することはできません。そして、それが今回の研修のゴールでもありません。今回の4時間は、すべてを理解するための時間ではなく、自分たちだけでは見えていないことがあると気づき、対話を続けるための入口です。

自分には知らないことがある。
自分の経験だけでは、問いすら立てられないことがある。
だからこそ、自分とは異なる経験を持つ人と一緒に考える必要がある。

インクルーシブデザインは、「多様な人について詳しくなる」ためだけの手法ではありません。自分だけでは分からないという前提に立ちながら、それでも多様な人とともに意思決定していくための実践なのだと、私たちは考えています。

研修は、実践への「入口」

今回のワークショップで体験したことは、インクルーシブデザインの入口です。実際に組織や事業を変えていくためには、その先があります。

理解・研修

当事者/ユーザーリサーチ

Inclusive Design / Participatory Design

共創・アイデア開発

プロトタイプ

ユーザーテスト・検証

プロダクト/サービス/組織への実装

一度の研修だけで組織やプロダクトがインクルーシブになるわけではありません。しかし、「誰がこの意思決定から取りこぼされているだろう?」と問い始めることはできます。そして、その問いを実際の商品開発、サービス設計、会議、組織運営などのプロセスに組み込んでいくことが、次の一歩になります。

多様性を「持つ」組織から、「活かす」組織へ

企業には、すでにさまざまな人がいます。異なる専門性、経験、文化、身体、働き方、生活背景。だから、これから必要なのは「多様性を増やすこと」だけではありません。すでに存在している多様性が、日々の意思決定に参加できる仕組みをつくること。

SOLITでは、企業ごとの課題やフェーズに応じて、

  • DE&I/インクルーシブリーダーシップ研修
  • 当事者・ユーザーリサーチ
  • インクルーシブデザイン
  • 参加型デザイン
  • 共創型ワークショップ
  • プロトタイプ開発
  • ユーザーテスト
  • プロダクト・サービス・組織への実装支援

まで、研修のその先も含めた伴走を行っています。もちろん「DE&Iについて学びたい」という段階からでも。「多様な視点を、実際の商品開発や意思決定にどう活かせばいいのか分からない」という段階からでも。ぜひご相談ください。

ご相談はこちら!

SOLITは、正解を一方的に教えるのではなく、まだ見えていない問いを、多様な人とともに見つけ、考え、実践していくことを大切にしています。

そこから、インクルーシブな組織や事業づくりは始まると考えています。



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