長田区の概念にとらわれないダイバーシティの形/INTERVIEW

長田区の概念にとらわれないダイバーシティの形/INTERVIEW

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わたしたちは、オールインクルーシブな社会の実現を目指すにあたり、国内外さまざまな場所を訪れてきました。そんな中で出会った兵庫県神戸市長田区の人々。長田区には、多様な人が集まり、国籍・年齢・障がい・言語などの様々な違いを受け入れ、楽しむ文化があることを知り、まさにオールインクルーシブな社会を体現している町のようだと感じました。

今回は、そんな長田区で活動をされている皆さんにインタビューをさせていただきました。お話を伺ったのは、長田区役所地域協働課の渡辺祥弘さんと上達弘明さん、そして関東から長田区のダイバーシティの形に魅了され、移住された保育士起業家 / 合同会社こどもみらい探求社の小笠原舞さんです。

今回お話ししてくださった、左から上達さん、小笠原さん、渡辺さん

(左から上達さん、小笠原さん、渡辺さん)

企業や組織のような「同じパーパス」を持った人々の集まりではないからこそ、強制することをせず、「多様な人々が暮らしやすい町を実現するために大切なこと」について知っていただければと思います。

多様性が注目された時代だからではなく、あくまで自然体で助け合い、尊重し合ってきた

ー長田区の魅力はどのようなところにあると思いますか?

小笠原さん:暮らしの中で当たり前に「助け合う文化」があることだと思います。その前提として、障がいの有無や年齢などの違いにフォーカスするのではなく、そもそもみんな違うという価値観があるように感じます。

本当はどこでもそうですが、長田の町は多様な人が自分たちのペースで生活していることをよく目にするの  で、その人に聞いてサポートが必要であれば協力する。それは「多様性」という言葉があるから、または言われたからやるというわけではなく、日常的に染みついているんだと思います。

これがとても大事なポイントな気がしていて...。もちろん「多様性」という言葉から多様な人が暮らしやすいまちづくりを意識することも大事だと思いますが、作ろうとするのではなく自然に助け合う意識が残っているのが長田区の魅力だと感じます。

渡辺さん:長田区の人は、「その人がよければそれでいいんじゃないかな」という考え方と「その人が困っているのであれば力になりたいな」という考え方を持っている人が多いのだと思います。

 

ー長田区について調べてみると、行政や市民、お隣さん同士の距離の近さが魅力の1つだと感じました。そのような距離感を実現できている秘訣は何でしょうか。

渡辺さん: 1つ目は年齢、性別、職業、国籍などの肩書きではなく1人の人間、友達として接する人が多いことです。僕自身、仕事上の立場としては区の職員であるけれど、だからといって特別扱いされるわけではなく距離を置かれるわけでもないんですよね。気軽に相談してくれたりイベントに呼んでくれたり、フラットに接してくれるのがとても居心地がいいです。

笑顔でカメラを見る渡辺さん、青いパーカーをきて、カフェのようなところに座る

2つ目は阪神・淡路大震災の影響です。長田区はこの震災により甚大な被害を受けました。そこでお互いに助け合い、なんとか乗り越えてきた経験が残っているからこそ、人とのつながりを大切にする人が非常に多いと思います。

3つ目は下町であること。これは長田区だけではなくほかの地域にもある部分だと思いますが、長屋やベンチ、路地がたくさんあったりといった下町ならではの構造によって、自然と人と人との距離が近づいてコミュニティができるのだと思います。

上達さん:町の構造に関して言うと、公共的なものだけでなく銭湯の待合室や喫茶店、粉もん屋 などの物理的に距離が近くなる場所が町の社交場としてあり、そこで立場を超えて話をするということがよく見受けられます。

家の居間のような場所。8人の大人と子供たちがほがらかに話している様子

小笠原さん:たしかに、社交場は余談や雑談が自然と生まれやすく、関係ができやすいと思います。そのような余白がいたるところに残っていることも町全体で共助のコミュニティをつくることができるのかもしれないなと感じています。

私は他者を思いやる気持ちによってダイバーシティが成り立っている長田区の構造が面白いと思って移住してきました。しかし、それは裏を返すと他者を思いやる気持ちがなくなると長田区の自然と形成されているダイバーシティの形や文化がなくなってしまうと思っています。

だからこそ、介護や教育、就労支援、芸術の分野で活動する私を含めた実践者と、渡辺さんと上達さんを含めた行政として町全体を見て環境を整える役割をする人たちが1つのチームとして連携していく必要があると感じています。

違いを面白がったり、お互いに尊重したり、行政と住民がフラットに相談しあったり、コラボしたりと、そんな関わり方を通して町の文化や価値観を守っています。

「自分」の概念を広くすることから生まれる助け合い

渡辺さん:あとは、長田区に住んでいて感じることとして「自分という概念が広い」ことが挙げられると思います。

例えば、家族や友達、同僚を含めて自分と考えたりといった意識が長田区の人々にあるように感じます。損得を考えて行動するのではなく、みんな友達だから友達は幸せでいてほしいというような感覚です。

上達さん:活動する人も、まだ見ぬ誰かのためというよりも身の回りにいる人が困っていて、その人のために何ができるかを考え、行動する人が多いように感じます。それが渡辺さんの言う「自分という概念が広い」ことでもある と思います。

小笠原さん:たしかに、自分の幸せだけを追求している人が少ない気がします。例えば、不登校になっていた学生がこの街に来て安心できる場を見つけたり、子育てに悩んでいた人がコミュニティに入ったことで楽しみながら子育てができるようになったりしたときに、自分と同じように悩んでいる人に長田区に来てほしいと思うようになる、という循環が生まれていました。

良いことをしたら自分に帰ってくるからではなく、自分自身が安心できる安全な場を見つけたからこそ、自然と人に対する愛があふれるという人が多い気がしています。

人と人の違いに対しても「大変」と感じるのではなく、考えや生き方が違う人と暮らしているからこそ心地いいと感じる。そしてその先にある豊かさや幸せを知っているからこそ、多様性や違いに対して尊重する姿勢があるのだと思います。

長田区のダイバーシティを言葉では表しづらいので、ぜひ一度「体験しに来てほしい」と強く思います。

小笠原さんとその息子、そして柴犬を連れて歩く後ろ姿

町本来の魅力を活かした、多様な人が暮らしやすい町

今回のインタビューをさせていただくにあたり、私は長田区の多様性に関する「取り組み」についてお話をお伺いしようと思っていました。しかし、インタビューを進めていくうちに長田区は「多様性」という言葉を強く意識して新しい文化を作ろうとしているのではなく、当たり前にダイバーシティの形や互いの価値観や違いを尊重する文化が存在しており、そのような文化を守っているのだと気が付きました。

インタビューを終えた今、感じることは「D&I」や「多様性」などの言葉をもとに構造を変えていくことももちろん大切ですが、その町本来の魅力を守り、活かしながら多様な人が暮らしやすい町について考えることが重要な第一歩なのではないかということです。

言葉だけが先行せず、人々の根本にあるやさしさや思いやりといったウェルビーイングの本質に目を向けることでSOLITの目指すオールインクルーシブな社会の実現にもつながるのだと感じます。

皆が同じ方向を向いているわけではない。だからこそ、それぞれの違いを受け入れ、尊重できる考えや価値観を守っていくことができる場所が、多様な人にとって住みやすい場なのだと改めて感じます。

 



今日話してくださった3人が商店街でわちゃわちゃしているところ

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