私たちSOLITが、2年前頃からインクルーシブデザインに関する定義や仕組みづくりなどご一緒させていただいてきたコクヨ株式会社は、2022 年に設定した全社の指針になる「重点課題」のひとつに、「社内外の Well-being の向上」を掲げています。
コクヨにおける障害者雇用は1940年にさかのぼり、法定障害者雇用率が定められる以前から長らく障害者雇用を推進されてきた歴史があります。また、2003 年には特例子会社としてコクヨ K ハート株式会社を設立、さらに2023 年にはコクヨ大阪本社 1 階にダイバーシティオフィス「HOWS PARK(ハウズ パーク)」をオープン。コクヨとコクヨ Kハートの協創の拠点とするなど、障害の有無を超えた連携を強めています。
この度、コクヨ K ハートの拠点を東京に新たに設置し、東京統括部としてコクヨの品川オフィス・THE CAMPUSの清掃業務にてさらに障害者雇用を開始されることになりました。そしてこの新たな門出に、スタッフ専用のユニフォームをわたしたちSOLITにご相談いただき、共同開発をさせていただきました。
実際に働かれるスタッフの方の意見も伺いながら、インクルーシブデザインの手法(コクヨではHOWS DESIGNと言います)をもとに、共にひとつ一つの細かな仕様・デザインを仕上げています。最終的に、複数の試作をへて完成したものを着てくださるところを見れてとても嬉しいです!
本記事では、わたしたちSOLITがどのような思いを込めてご一緒してきたのかをまとめております。ぜひコクヨ社のプレスリリース、インタビュー記事と共にご覧ください!
コクヨ社の公式プレスリリースはこちら:コクヨ公式サイト
仕事が始まる時、袖を通すことが楽しみになり、自信をもって仕事に向かえる服に
SOLIT ファッションデザイナー・生産管理
ITSUO
コクヨKハートのユニフォームというテーマに対し、ただ作業をこなせる機能服ではなく、着ることで自信を持って人と接することができることを想像しました。通常、清掃という業務において、他のオフィスワーカーに引け目を感じたり、汚れを気にしたり、それが故に消極的な姿勢になってしまう印象があります。
ただその実、オフィスの快適性は清掃によって保たれる部分は大きく、全ての従業員・訪問されるお客様に対しての貢献をし、企業イメージを向上させることのできる立場です。
オフィス内で共存する全ての人にとって、そしてこのユニフォームを着て職務に就く従業員のみなさんにとって、このアイテムが一種のステータスとなり、心理的なバリアを無くすことができればと願っています。まずは従来の清掃を担当される方のユニフォームの課題や、期待される機能やイメージの認識合わせをさせて頂いた上で、今回のアイテムに必要な要素として、以下をベースとしました。
・オフィス内外で人と会った時に自信が持てる
・街中にも出られるくらいの素材感
・攻撃的でない
作業が快適にこなせる素材の選定においては、作業服で通常使われる無骨なものではなく、繊細な外観でシワになりにくいものを採用しました。一般的にファッションアイテムで使用される素材感で、さらに洗濯後もシワになりにくいことで、着用時にだらしなくならず、セットアップを着ているような外観としました。
また、わたしたちSOLITのアイテムの特徴であるリブなどの採用で、作業中の快適さをプラス。実際に働かれる場所の「THE CAMPUS」のキーカラーでもある、発色のいいピンクをステッチカラーに取り入れています。アイテムラインナップはカバーオール・カーゴパンツ・オーバーオール・シャツ。
ボトムスは使用者の好みで、カーゴパンツとオーバーオールを選べることで、自分なりの着こなしをすることができます。これから仕事が始まる時、袖を通すことが楽しみになり、周囲にも信頼できるチームとして認識される。
Kハートの新しい取り組みのスタートを楽しみにしています。
無骨で力強いイメージではなく、コクヨらしいイメージに
SOLIT ファッションデザイナー
MERINA
今回、私が参加したときにはオーバーオールを制作するという大枠が既に決定している状態でした。オーバーオールをベースにユニフォームを制作するにあたり、私がまず最初に抱いた印象は、「無骨で力強いイメージ」でした。
オーバーオールは、誕生の歴史からしばしばハードな労働を象徴する衣服とされ、機能性が優先される一方で、デザイン的にはシンプルで飾り気のないものが多いです。それでいてデニム生地で作られていることが多く、重く、乾きづらく、動きにくいというデメリットがあります。
コクヨさんが持つイメージや、ユニフォームに込めたい思いをお聞きしたとき、従来の無骨で頑丈なイメージは不一致していると感じました。企業として大切にされている温かさや柔らかさを表現し、着る人にとっても心地よく感じられるユニフォームを目指す必要があると考えました。
そのため、形自体はオーバーオールの特徴を活かしつつも、ディテールやカラーリングにこだわることにしています。特に、カラー選びには慎重に取り組みました。カジュアルでありながら、どこか洗練された印象を与えることができるテラコッタカラーをインナーに採用し、温かさや親しみやすさを表現することを目指しました。
テラコッタカラーは、「THE CAMPUS」の階段や壁にも一部使われている色でもあり、自然な土の色合いを思い起こさせ、オーバーオールの無骨な印象を和らげ、落ち着いた雰囲気を醸し出すことができると思いました。ユニフォームとしての実用性を確保しながらも、ボタンのカラーや糸の配色まで細かいディテールに気を配ることで、ただの作業服ではなく、街中で道ゆく人とすれ違うときでもいつでも自信を持って働くことができる、そんな服を目指しました。
働く人がこのユニフォームを着ることで、自分たちの仕事を快適に進めることができるように、自信を持てるように、そして、周囲の人々に対しても心地よい印象を与えられるようなデザインになっていると嬉しいです。
ユニフォーム制作は、単に機能性を追求するだけではなく、着る人の気持ちに寄り添い、着用する人々の日々の活動を支えるものでなければならないと感じています。ユニフォームを着るときに、今日も頑張ろうと思えたり、自分の仕事に誇りを持てたりするような、着ていて自信を持てるデザインにしていくことが大切だと思っています。
今回のコクヨKハートのみなさんのユニフォームもそのように感じていただけたら幸いです。
毎日着る服に、想いをのせて
SOLIT 代表
MISAKI
コクヨのみなさんとは、ダイバーシティ&インクルージョンの自社としての定義を考え始めるところからご一緒させていただき、大阪のHOWS PARKのオープニングや、WEBサイトの立ち上げ、情報発信など、ほんとうにありがたいことに様々な場面でご一緒させていただいてきました。
HOWS PARKには2ヶ月に1回くらいの頻度で伺っていて、だんだんと人となりや仕事への姿勢や想いも聞かせてもらったり、「こんなことできたらわくわくするよね」といった未来の話もさせていただいたりする中で、今回ユニフォームのデザインをさせていただくことになり、とても嬉しかったのです。
コクヨの障害者雇用やダイバーシティ&インクルージョンに対する想いも、そして同じくサステナビリティに関する思いやこだわりも伺っていたので、ヒアリングさせていただいた時の依頼に入っていなかったとしても、「このような思いが実はありそう」という背景を想像しながら、ITSUOさんやMERINAがその想いをファッションデザインに昇華させる中で、私は運用・生産の仕組みとして以下のようなことを思いながら全体の設計をしていました。
- 着る人が企画会議に入り、その意見がちゃんと取り入れられること
- いろんな体型、体質の方がいる前提で素材や形状を考えること
- 洗いやすく、乾きやすく、丈夫。商品寿命が長く廃棄を前提としないこと
- 在庫を持つ前提にせず、着る人に合ったものが提供できる仕組みにすること
- できるだけ安価で継続しやすい価格にすること
私たちは量産型の制服屋さんではないので、もちろんとっても安いものは作れないですし、生産における環境配慮・人権配慮をしたいという思いからそのこだわりは手放せません。それを理解していただいた上で、コクヨ・コクヨKハートのみなさんにはご依頼いただいているので、もちろん社内で決裁をおろしたり運営したりするのが大変だったこともあるとおもいます。
それでも私たちSOLIT、そしてコクヨの皆さんの協力の上で、毎日着るユニフォームが着る人だけでなく企業のスタンスや思いがのり、伝わっていくといいなと思っています。
Direction:Misaki Tanaka
Design Lead / Production:Itsuo Mihara
Design:Yanome Rina
Photo:Yamanaka Sampo
Writing / PR:Natsumi Wada