目に見えない障害や特性を持つ多様な人たちが一緒に働くこと、生きていくこととは

目に見えない障害や特性を持つ多様な人たちが一緒に働くこと、生きていくこととは

人はそれぞれ違った特性や悩み、スキルなどを持っています。だからこそ、その人が活躍できる場や状況もそれぞれ変わってくるはず。組織の中で個性や特性を活かし、多様な人が心地よく働くことができる環境を作るためには、何ができるでしょうか。

多様なメンバーが共存する会社としてできること

多様な人も、動植物も、誰もどれも取り残さない。

そんな社会を目標としているSOLITのメンバーは、国籍、言語、セクシュアリティ、生活環境、年齢、職業・職種が異なる多様な意思決定者が共存しています。だからこそ、社外に向けた取り組みだけではなく社内で多様な人が関わり合い、心地よく働ける環境について日々考え、取り組み続けています。

その取り組みの一環として、「自身の特性把握と対応」についての勉強会を開催しました。きっかけは、働き方に対する現状やそれぞれのメンバーが共に働くメンバーに理解しておいてほしいことについてヒアリングするための「社内アンケート」の実施でした。

アンケートを経て、自己の特性と組織の中での働く方法に関して悩んでいるメンバーが多いことが明らかになり、自分の特性と付き合うために自己分析を重ねて環境調整をしてきた経験をもつメンバーを中心に、自己の特性把握と対処法を学ぶための勉強会を開催することになったのです。

このJOURNALでは、勉強会を通して参加者間で生まれた気付きや学びをご紹介します。自分の特性が原因で悩んでいる方だけでなく、組織の中で人事関連の仕事に携わる方や、身近な人の悩みをサポートしたいと思っている方、仕事選びの転機にいる方にも読んでいただけるとうれしいです。

自分を理解するために、まずは言葉の理解から

自己の特性について把握する上で、最近聞く機会の多い「ADHD」「ASD」「HSP」の言葉について整理をするところから勉強会は始まりました。ADHD(注意欠如・多動性障害)やASD(自閉スペクトラム症)は脳の発達障害として扱われる一方で、HSP(Highly Sensitive Person)は医学的な診断名(障害や病気の名前)ではなく、心理学の分野で1つの気質として扱われます。HSPについては、精神医学の分野でその症状を判断する場合には「不安神経症」という別の名前で呼ばれているそうです。

ADHD/HSPなどの言葉について整理した図

混同されたり並列で並べられたりしがちなこれらですが、そもそもの学問領域も異なれば、生じる困りごとへの対処法についても、一般的にはそれぞれ異なった対策方法が必要だと考えられているようでした。

とはいえ、これらの間にも似たような困りごとが発生することもあれば、複数の特性を持つ方もいます。だからこそ、最初から「ADHD」「ASD」「HSP」などの名称にこだわって個人の性格や特性を単純化したり決めつけたりするのではなく、まずは「何に困っているのか」ということに着目し、向き合うことが大切なのだと勉強会では伝えられました。

実際に登壇して体験談を語ったメンバーは、ADHDとASDの二つの診断を受けている上に、HSPのような気質が感じられることもあるそうです。参加者からも、「自分を見つめる前に名前だけにとらわれて、自分をその症状に寄せてしまっていた」という声や「HSPを言い訳にしてしまい、自分で勝手に線引きしてしまっていた」という声があがりました。

言葉をきっかけに自分を知る

前提となる言葉の定義を知ったうえで、次のステップとしては自分自身を把握することが大切です。ここで以下の3つのポイントを意識すると、次のアクションに繋げやすくなります。

自分は何に困っているのか

自己の特性に悩む人は「ADHD」や「HSP」などといった名前に困っているわけではないはずだと、登壇したメンバーから投げかけがありました。その上で、まずは自己の特性の中の「どんな症状による」「どんな影響に」困っているのか? という部分にフォーカスし、今までの経験や物事に向き合う時の自分の心の状態・感情を振り返りながら明確にしていきます。

例えば、満員電車に乗ったとき、逃げたいと思い涙が出てきた。それはなぜだろう?というように、日報をつけたり日記を書くなどをして記録していきます。敢えて初めから自分の状態や困りごとを診断名や症状名に紐付けないことで、先入観に囚われずより純粋に自分の「状態」「特性/特徴」を理解していくことができます。その日にこなしたタスクや起こった出来事、そのうえで「どこに困ったか」「なぜそう感じたか」等を細かく記録しておくことがおすすめです。

その症状は、なぜ生じているか

これまでの出来事1つ1つを振り返ってみると自分が辛くなる場面の傾向が見えてくるかもしれません。記録を振り返るなどして、具体的にどういった場面でどのような症状が起こりやすいかを分析してみると、自分をどう扱っていけばいいのか考える一助になります。

そうした傾向が見えてきた中で、自分で対処ができるのであれば問題がないかもしれません。ただ、それでも限界があるなと感じたり、「なぜそうした困りごとが生じるのか」の部分をより明確にするための1つの手段として、病院での受診が挙げられます。医学的な診断や心理学的な定義づけは、今までの悩みの答え合わせのようなものだとも捉えられるかもしれません。

どんな対処法が適切か

困りごとがおこる原因や傾向がわかることによって、自身の悩みに対して「何をするべきか」がクリアになります。例えば、周りの人の声が気になってしまいオフィスワークが苦手であるなら、リモートワークができる仕事を選ぶといった環境調整をしたり、病院で医師と相談し投薬治療やカウンセリングを受けたりするなど、対処法はさまざまです。

実際、発達障害を原因とした二次障害が生じている場合などは、まずはそちらの治療が必要になるという場合もあるでしょう。何らかの診断を受けていない場合でも、自分の特性を理解すると、それに対する対処法は見えやすくなります。

 

例えば、特性に対する対処法の例として画像のようなものが挙げられます。もちろん適切な対処法は一人ひとり異なるので、自分にとっては何が最適かを考え、試していく必要があるのだそうです。

対処方法と呼ばれるアクションを箇条書きにした図

(登壇したメンバーが行っている日常的な工夫の一部)

 

特性とうまく付き合うために

自分の特性を理解し対策を立てるためには、自分自身と向き合い続け、根気強く自己理解を進め、トライアンドエラーを繰り返しながら探っていく必要があります。これは、決して簡単なことではないはずです。だからこそ、長年自己の特性に向き合ってきたメンバーの事例をもとに、自己の特性を理解し、対策を立てるために役に立つかもしれないことを3つご紹介します。

「状態」「影響」「感情」を分けて理解する

例えば、会議中に意見を問いただされたら、いつもすぐに泣いてしまうことに悩んでいる人がいるとします。こうした場合、状態・影響・感情を敢えて分解して状況を理解・把握していくことがおすすめだと勉強会で共有がありました。

  • 状態:〇人以上の人たちと話し合いをする会議中/部長クラスの人たちとの会議中 に質問され、答えられずに泣いてしまった
  • 影響:話し合いの場が中断してしまいチームの時間を有効に使うことができない、周りに気を使わせてしまう
  • 感情:大人なのに恥ずかしい/時間を奪ってしまって申し訳ない/仕事ができないと思われていそうで怖い/正しい回答をしなければと思うと自信がなくなって苦しくなる

このように「状態」「影響」「感情」の3つに分けたうえで、自分はこの中の何に一番悩んでいて、どの部分であれば変えることができるのかといったことを1つ1つ整理して考えていくことが大切です。

この例の場合だと、泣いてしまうという「状態」を変えるのではなく、「影響」と「感情」の部分から着手すると、泣いてしまう状態は変わらなくとも本人や周囲の捉え方が変わり、その困りごと(本人が今一番苦しんでいる目の前のこと)は改善ができそうです。

例えば、感情を開示することで周囲が本当はどう思っていたのかという事実を認識し、思い込みの認知を修正していくことや、泣いてしまうことがあるが気にせずに進めてもらいたいということを事前に伝えることで影響の部分をなくし、それによって自分の気持ちの面での負担も減らすということもできるでしょう。

もちろん、根本的な原因の改善が可能であればそれもトライしてみるといいかもしれませんが、カウンセリング等は長期間必要でその間の苦しさを緩和できなかったり、発達障害の場合は「治る」というものではないということから、登壇メンバーはこの方法を取り入れていたそうです。

自分が取り組んでいる、または取り組もうとしている仕事を「苦手/得意/好き/嫌い」の4軸で分類する

自分の能力を理解し、現状の仕事と自分の特性との相性を考えるうえで、タスクを「苦手/得意」だけではなく「好き/嫌い」を含んだ4つの軸に当てはめてみます。タスク1つ1つをスキル面のみならずマインドも含めた分類にすることで、持続可能な働き方に向けた全体のタスクのバランスを考えたり、自分に合った能力を伸ばすことに繋がったり、それぞれの進行に必要な時間や心の余裕を把握して期日を設ける参考にしたり、人に頼ってみたりといった対策をとることができます。

得意・早い・苦手・遅いの4つに分類してみる図

協力者が協力しやすい方法を提示する

生きていくなかで人との関わりは避けられないものなので、一緒に働く仲間や友人、パートナーなどに協力してもらう必要がある場面もあるはずです。そうした場合に相手が協力してくれるかどうかはあくまで相手の判断になり、自分がコントロールすることはできません。ただ、「相手が協力しやすい方法」をこちらから提示することで、協力してもらえる可能性を上げることは、自分ができる範囲の、共生していくための工夫のひとつだといえそうです。

例えば、泣いてしまったときは「一旦頭の中で整理したいので気にせずその場を進めてほしい」旨を伝えたり、「進捗管理をされたり毎日定期的に進行することが苦手だ」と伝える代わりに期日は毎回必ず守るようにする、「気圧の変化に弱く体調に影響しやすいが頭痛薬で対処できるので暫く見守っていて欲しい」「季節の変わり目に鬱っぽくなりやすいのでそのタイミングは自分のペースで仕事を進めたい」と伝えるなどの工夫があるかもしれません。

相手に協力してほしいと思っていても、自分の特性について正確に開示することができずにいると、相手も何をしたらよいかがわからず、協力することができないということもあると思います。だからこそ、チームで何かをしていく場合には特に、自分で自分の特性を把握し、相手に共有することができると、自分も周りも楽になるということがあり得るのです。

 

勉強会を経ての感想

参加者から集めた今回の勉強会を経ての感想を紹介します。 

仕事をするうえで、周りのひとの何倍も時間がかかったり、うまく業務がこなせないなど悩みがあり、まさに自己理解が必要だと感じているタイミングで参加しました。 自分ができないことや苦手なことを克服しようとしたり、理想の人間になろうとするのは正直、苦しく感じてしまいます。 しかし、今回お話しを聞いて、まずは自分の特性を観察して受け入れ、どうしたら生きやすくなるかを考えながら環境を整えていくことは、ポジティブに取り組んでいけそうだと思いました。 日々の自分の状態や感情を言語化しながら、まずは自分の特性にゆっくり向き合っていきたいです。 (SOLITメンバーA)

 

自分がHSPだと知ったときから、自分の悩みと正面から向き合うのが怖く、「また気質のせいで」といった言い訳をしてたくさん逃げてきました。しかし今回の勉強会で、名前だけを見るのではなく悩みや症状の原因を細分化し、自己分析をすることで自分なりの仕事スタイルが確立できることを学び、仕事に対して前向きになれました。就職活動中なので、特性をもとにした自己分析を徹底し、自分の悩みとそれにあった環境を探したり環境調整を心掛けたりしたいと思います。 (SOLITメンバーB)

 

今まで、気分が下がってしまったり、体調が悪くなってしまったり、集中できないことがあったのですが、その要因が何なのかをじっくり考えずにただ辛い・苦しいと感じていたような気がします。今回の勉強会で、自分の特性について理解し、うまく付き合っていく方法を探ることの重要性を学び、自分も、関わる人も心地よく、やるべきこともやりたいこともきちんとできるように、少しずつ自分と向き合おうと思えました。 (SOLITメンバーC)

 

今回、アンケートの結果からSOLITメンバーにも特性に悩む人が多いことに驚いたと同時に、それを口に出せる心理的安全も確保できていたと思うと嬉しく感じ、メンバーに特性とどのように向き合うか考えてもらいたく、勉強会を主催しました。私は、HSPなどの特性は抱えていないですが、自分自身の行動や特性を理解することは、HSP等の症状がなくても重要だということ、そして他者理解は本当に当事者の声を聞かないとわからないこと、その特性にも人それぞれで個性があるということを学びました。多様なチームと良好な人間関係を築く中で、人を特性でカテゴライズすることなく、一人一人の声に耳を傾けることやお互いの個性や特性を尊重しながら支え合うことが大事だと改めて実感しました。 (SOLITメンバーD)

 

目に見えない気質や障害と正面から向き合い、自己分析を重ねることは精神的にも肉体的にも負担が大きいこと。でも、仕事ができない、人と付き合うのが下手だなどと自分を否定するのではなく、自分の特性を理解し自分にあった環境調整をすることが大切なのだと思います。勉強会の中でも終始強調されていたのは、「自分が幸せに生きやすくなるために」これらを実施していくと良いのではないかということ。障害や診断の有無を問わず、どんな特性があったとしても、それを含んだ自分という存在と共に、大切な人たちと生きていくための一つの工夫として捉えて欲しいということは、とても大切なメッセージだと感じました。

このJOURNALが、仕事や人間関係を自分らしく前向きに楽しむお手伝いができていたら、とてもうれしいです。

 

一覧に戻る