「対話」から生まれた新しい価値/INTERVIEW

「対話」から生まれた新しい価値/INTERVIEW

目次

わたしたちが目指す「多様な人も、動植物も、地球環境も、誰もどれも取り残さないオールインクルーシブな社会」の実現は、SOLITだけの力で、手が届くものではありません。オールインクルーシブな社会の考え方に共感をしてくれる個人の存在、家庭の存在、企業の存在、町の存在などがいて、みんながそれぞれのオールインクルーシブに向かって取り組む必要があります。

そんなオールインクルーシブな社会に共感し、そして会社として具体的な取り組みを行っている、コクヨ株式会社(以下、コクヨ社)今回は、コクヨ社でオールインクルーシブな取り組みの実践者として働く、井田幸男さん(CSV本部サステナビリティ推進室 理事)、林友彦さん(ワークプレイス事業本部ものづくり本部シーティング開発部大阪グループ・社会のWell-beingタスクフォース兼務)、江崎舞さん(働き方改革室・社会のWell-beingタスクフォース兼務)にインタビューをしました。

コクヨでは、一人ひとりが多様な人の違いを受け入れ、尊重することで、個人が自分らしく能力が発揮できる環境を整えるというD&I(Diversity&Inclusion)の取り組みに加え、それによって生まれた価値を、より多くの人に届けるという「D&I&I(Diversity&Inclusion&Innovation)」という取り組みも行っています。

今回のJOURNALで、企業が今取り組むべき課題はどのようなものなのか、D&Iに全社で取り組む意思決定は社内外にどのような影響をもたらすのかなどについて知っていただけると嬉しいです。

 

「新しい価値」への期待から生まれたコクヨのD&I&I(Innovation)

ー部署やチームごとの取り組みではなく、全社の意思決定としてコクヨがD&Iの推進を決めた理由を教えていただけますか?

井田さん:最初のきっかけは強烈な課題意識でした。例えば、障がいのある方への企業の取り組みでいうと、障害者雇用促進法における法定雇用率の基準を満たしているからD&Iに取り組んでいるという考え方もあると思います。しかし、私たちは「法定雇用率を守るだけで果たして多様性を包括できているのか」という課題意識のもと、議論が始まったのが意思決定の前提としてあります。

議論をするうえで、2つの問題提起をしました。

1つ目は、「D&Iの取り組みは障がいがある人だけが対象なのか」ということです。例えば、セクシュアルマイノリティや高齢者、ヤングケアラーなど多様性への取り組みの対象としてもっと視野を広げるべきなのではないかということを考えました。

2つ目は、「インクルージョンしているって何だろう」ということです。例えば、特例子会社によって障がいがある人を雇用することはできているけれど、コクヨで働く社員がそこで働く方たちと対話を重ねて、一緒に仕事をすることはできていないという状況がありました。そのやり方の延長線上では、これから先、通用しないのではないかと考えました。

 

ー議論の中で、どのように意思決定をしたのでしょうか?

井田さん:意思決定においては2つのポイントがあります。

1つ目は、経営における課題としてとらえたことです。人事という1つの部署や特例子会社だけが取り組むべき課題であるのか、ということを考えたとき、経営として全社で取り組む課題だという結論に至りました。

2つ目は、なぜ全社の意思決定としたのかという部分にもつながりますが、コクヨが今後成長したい方向性とD&Iの方向性が一致したことが挙げられます。例えば、段差のあるオフィスや右利きの人用に作られているはさみなどによって起こる困りごとを、当事者と対話を重ねることで解決できるとすれば、そのニーズは必ずあるはずで、コクヨにとっても新しい価値になるのではないかと考えました。

コクヨのインクルーシブデザインのミーティング風景

ーリターンのスピード感が求められる大企業にとってD&Iに取り組むことは難しいことだと思いますが、大企業としてD&Iに取り組むことへの価値はどのようにとらえているのでしょうか?

井田さん:すごく簡単に言うと、イノベイティブということだと思います。リターンという観点においては、困りごとを解決することによって社会システムが良くなると、それに対してお金を払ってでも取り組もうという考えになると思うので、経済合理性の面ではリターンのあることだととらえています。

また、世の中に対する価値観のセットという点においても重要なことだと思っています。社会システムが「障がい」を作り出しているととらえ、それを無くすための事業活動をするという新たな価値観を示すことができると考えています。

ー「イノベイティブ」という言葉がありましたが、それがコクヨがかかげているD&I&I(Innovation)につながっているということなのでしょうか?

井田さん:そうですね。コクヨの考えるD&Iの形は、社内の困っている人にむけて、オフィスの段差や家具、文房具などの在り方を考え、試してみて一緒に働く環境を整えることです。そして、コクヨの考えるD&I&I(Innovation)は、社内で試したものを商品化して販売することによって社内にとどまらず、世の中で困っているより多くの人に価値を届けられるということです。

インクルーシブデザインに期待をこめて

ーこれまでの具体的なD&I&Iの取り組みを教えていただけますか。

井田さん:私は主にD&Iの部分を担っています。D&Iにおける具体的な取り組みは、2030年チャレンジ目標として「インクルーシブデザインを経た新シリーズ上市率を50%以上にする」とKPIを設定するなど、全社としての目標を掲げたことが大きいと思います。一般的に、企業は来年度の売り上げ目標を提示し、株価が上がったり下がったりするという構造なのですが、このような社会的な価値に対しても、会社として目標を設定しました。

これは、外部に対してとは別に内部に対しても大きな影響があったと思います。例えば、商品の開発においては、開発プロセスにインクルーシブデザインを加えるとなると、単純に仕事が増え、負担やコストがかかってしまう。しかし、そこに全社の目標があり、その対価としてのサラリーがしっかりあることで動きやすくなったと考えています。

林さん:私はオフィス家具の開発を通じて、主に「&I(Innovation)」の部分を担っています。「&I(Innovation)」の突破口としてオフィス家具の開発にインクルーシブデザインを取り入れているのですが、メーカー部門だけでインクルーシブデザインに対するアクションを起こせるかというとやはり難しい部分があると思うんですよね。

マスのターゲットに対して平均的なモノをつくり、より多くの利益をあげることをどうしても考えてしまうので。ただ、井田も言っていたように、全社のKPIがあることによって、勇気を持って取り組めることにつながります。慈善事業ではなく、しっかりとリターンを考えて取り組むことが、私たちのチームを後押ししてくれました。

車椅子で出入りするときに移動しやすいのかチェックしている風景

ー数ある多様性へのアプローチの中からインクルーシブデザインに着目した理由を教えていただけますか。

井田さん:実はわたしたちには原体験があるんです。10年くらい前に、ワークショップにおいて当事者と対話を重ねて開発をするという、インクルーシブデザインを体験しました。そこでは、杖を着いた方、白杖の方、盲導犬を連れた方、ベビーカーをひいたお母さんなど、多くの人が使う役所のソファを、多様な人が使いやすいものにするにはどのようにしたらよいかを考えてデザインをしました。

この体験を通して、インクルーシブデザインによって新たな価値をつくるという体感が得られたのですが、やはり工数の観点や確実ではないという点で断念していたんです。そこで、今回全社としてD&Iに取り組むことができるということになり、この原体験からヒントを得て、インクルーシブデザインを活用するという意思決定に至りました。

 

ーインクルーシブデザインにはどのような価値があると考えていますか。

林さん:多くの人に届けられる可能性があることだと思います。インクルーシブデザインはデザイン段階ではターゲットをぎゅっと絞り込んで設計するので、少数の人を包括するだけのものであり、リターンは少しだけだと捉えられやすいように感じます。しかし、実際にアウトプットとして作られたプロダクトは、似たような悩みや全く考えていなかった悩みを解決することにつながっていることがあるんです。そういう意味で大きな可能性を持っていると考えています。

井田さん:具体例を挙げるとすると、コクヨは10年くらい前に、環境保全の観点から針のないホッチキスを作ったんですよ。当時は「エコ」が企業活動にとって重要だという考え方がトレンドだったので、メインターゲットは企業・社会人だと思っていましたが、意外にも売れた先に保育園がありました。安全だからという理由で。これは、SOLITのプロダクトにおいても言えることだと思います。課題当事者との対話によって生まれたSOLITのプロダクトをコクヨのメンバーも愛用しています。そのメンバーに話を聞いたところ、「SOLITの服は着替えがストレスなく、時間もかからないので毎日着てしまう」と言っていました。

このように、ある困りごとに着目すると、似たような横展開で市場が生まれることがあると思います。これは、マスでとらえる一般的なマーケティングプロセスからはなかなか生まれない価値だと感じています。

 

社内、そして社外のメンバーとの「対話」を通じた気づき

ー全社の意思決定を社内のメンバーに浸透させるために取り組んでいることはありますか。

井田さん:コクヨでは「実験カルチャー」と呼んでいるのですが、まずは挑戦し、その結果を振り返りながらアップデートしていくサイクルを作っています。

林さん:2023年6月1日に、ダイバーシティオフィス「HOWS PARK(ハウズ パーク)」が始動しました。このオフィスは「らしさが集い、未来がひらく。みんながつながる創造広場」をコンセプトに、コクヨと特例子会社であるコクヨKハート株式会社の社員が連携してつくった場です。このように、今のコクヨには、一緒に多様性について考えられるKハートの仲間がいて、「HOWS PARK」という多様性を受け止め、実践できる場があります。

また、実際に体験してみないとアクションを起こすモチベーションにつながらないので、トライアルで積極的にワークショップの場を取り入れています。例えば、インクルーシブデザインのワークショップによって、新しい価値が生まれる手触り感を覚える。これを継続的に行うことが、社内のメンバーにD&I&I(Invation)の取り組みが定着することにつながると考えています。

HOWS PARKロゴ

ーSOLITが伴走支援として関わらせていただいたと思いますが、SOLITと協業したことによって変わったことなどはありますか。

江崎さん:プロダクトを目指したい世界観の実現のための1つのツールとしてとらえ、ビジョンを持っているところが、すごく勉強になりました。SOLITの場合はそれがファッションであるけれど、コクヨに置き換えたら、家具や文具がコクヨのビジョン実現のためのスタート地点になり得るのだと考えられるようになりました。

林さん:正直言うとコンサルをされるというのがあまり得意ではなかったのですが、SOLITの視野の広さやまなざしの確かさにすぐファンになってしまって...。マネしたいなと思いました。

井田さん:やはり、世界を見ているという点で視野の広さが勉強になっています。また、ソリューションを考える際のネットワークの多さにびっくりしました。美咲さん(SOLIT代表)の「みんな仲間だ」という雰囲気にも圧倒されました(笑)

インタビューを終えて

今回、コクヨ社で働く方々にインタビューをさせていただいたことで、「対話」の大切さを改めて感じました。多様な人が集まる組織がD&Iに取り組むということにおいては、多様な人が助け合い、手を取り合いながら共存するための対話や、組織として世の中の課題の本質をとらえて動き出すための対話が重要な役割を果たすのだと思います。さらに、コクヨのD&I&I(Innovation)の考え方のように、対話の中で生まれた価値をより多くの人へ届けることができるのも、企業として多様性の促進に取り組む意義だと感じました。

SOLITでは、アドバイザリーボードの設置を代表とするように、多様なステークホルダーの総意に基づき、長期的な視点で経営の意思決定を行っています。また、多様な人との対話を通じて気づきを得るための勉強会や試着会の場も設けています。これらを十分に活用し、これからも多様な人と対話を重ね、表面上の考えをもつのではなく、いろいろな価値観や景色に触れながら大きな意思決定をしていきたいと考えています。

 

コクヨ株式会社:https://www.kokuyo.co.jp/

ダイバーシティオフィス「HOWS PARK」:https://www.kokuyo.co.jp/newsroom/news/category_other/20230601cs1.html

コクヨKハート株式会社:https://www.kokuyo-k-heart.com/




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