30人弱の参加者がみんなで議論をしている様子。その上に「ダイバーシティ&インクルージョンラボ」の白文字

DE&Iを実践知に変える全6回のプログラム──Diversity and Inclusion Lab 実施報告

目次

Diversity and Inclusion Lab、全6回が終了いたしました!

私たちSOLITは、20254月〜6月までの3ヶ月間、全6回のプログラム「Diversity and Inclusion Lab - 多層的な多様性の探求と実践」をUNIVERSITY of CREATIVITY(以下、UoC)と協働で開催しました。

本プログラムは、多様なバックグラウンドを持つインスパイアラー(参加者や会場に新たな示唆を提供する人のこと)を迎え、参加者同士の対話を重ねながら、「自分にとってのD&I」を問い直す時間を共有しました。

本記事では、6回にわたるプログラムの学びを振り返ります。執筆は、SOLITのインターンであり、本プログラムに全回インスパイアラーの一人としても参加したNaoが担当しています。

各回の概要はDiversity and Inclusion Lab ‐ 多層的な多様性の探求と実践 -に記載されております。

 

第1回:「D&Iとは?」を問い直す

さて、記念すべき第1回目のテーマはFinding signals:未来のD&Iのシグナルを見つける」。この全6回の旅の出発点として、参加者それぞれの捉えているD&Iの現状やそれらを通して見据えている未来を確認するようなワークショップでした。

プログラムは、緊張感をほぐすための「チェックイン」からスタート。初回はUoCのユニークな会場を歩き回り、「自分が落ち着ける場所を探す」というワークを行いました。このワークがすごく効果的で、緊張がふわっと溶け、自然な会話が生まれていきました。

 

ALTはじまり。コルクのような見た目だけれどツルツルした床に3名が横になったりのんびりして、自由な体制で対話をしているところ。ALTおわり。

その後、座学ではSOLIT代表の田中美咲が登壇し、多様性、インターセクショナリティ、特権性、課題の再生産といった視点をもとに、「政治・経済・エンタメなど、社会のあらゆる領域にD&Iが関わっている」ことを提示しました。

続くワークショップでは、インスパイアラーの石井健介さんがファシリテーションを行い、参加者全員がそれぞれの視点から、「現在のD&Iに影響を与えた客観的事実」を付箋に書き出し、時間軸に沿って全員でD&Iの過去・現在・未来のマップを作り上げ、課題意識や見据えている未来を共有しました。

 

ALTはじまり。黒い黒板にたくさんの付箋が貼られている様子。周りには10名ほどの人がそれをみて議論をしている。ALTおわり。

 

第2回:有害なステレオタイプと日本のメディアの特性

続く第2回目のテーマはNothing about us without us:私たち抜きに私たちのことを語らないで」。ゲストスピーカーに国連女性機関(UN Women)日本事務局より市川桂子さんをお招きし、豊富な調査データなどを基に「当たり前だと思い込んでしまうことで水面下に隠れてしまう課題」を見つめ直す回でした!

そして、障害者インクルージョンの世界的なネットワークでもあるValuable 500CEOであるKatyさんより「なぜ日本企業における障害者インクルージョンは大事なのか」、そして、Maciejさんよりリプレゼンテーションに関する動画と課題をもとにみんなで議論を深めていきました。

問題は、問題が見えていないこと

テーマの確認、ゲスト紹介の後は短い動画をスクリーンで視聴しました。そこでは、俳優たちが、自身の才能や経験に関係なく、外見や性別、人種によって特定の役に押し込められる様子が描かれていました。これにより、自らのステレオタイプに自覚的になることの重要性を、身をもって実感することができました。その後も、ステレオタイプが含まれている実例を読み解きながら、座学が進み、「D&Iはビジネス戦略として効果的である」という、印象的で背中を押してくれる調査結果もありました! 

ALTはじまり。天井はシルバーのパイプが折り重なり、スケルトンの状態。そして床はコルクのような見た目で焚き火をする時のように丸く座れるようにやわらかな楕円になっている。そこに20名程度の人が中心に向かって座り、真剣に議論をしている。ALTおわり。

ワークショップの時間では、「議論をするための時間的な余裕が必要」という声であったり、「その声自体が正しいのか」「専門家不在の不安」といった、解決策よりも現状に疑いの目を向けるような「そもそも論」が多かったように感じました。参加者の様子から、現在解決策を考えることは企業や担当者の力量に委ねられており、且つ不安定な状況であるのだと感じました。

ALTはじまり。できるかぎりそれぞれが自分らしくいることのできるように、それぞれがあぐらをかいたり、段差に座ったり、段差を背もたれに使ったりと自由に座っている様子。ALTおわり。

 

第3回:多様性を批判的に捉える

第3回目のテーマはExplore social transformation:ダイバーシティ推進を批判的に問い直す」D&Iの根源的な問題についてシドニー工科大学名誉客員教授の岩渕功一さんをゲストにお迎えしお話を聞きました!

D&Iを推進する際、ポジティブな側面だけを見てD&Iを語ることの危険性(ハッピートークで語られるD&Iの危険性)にどんな問題が潜んでいるのか、といった議論が膨らみ、既存のD&Iの捉え方を今一度考え直す対話が繰り広げられました。

都合の良い多様性と、隠れるマイノリティ

岩渕さんのお話は、多様性の定義から始まり、非常に根源的な問いを参加者たちに与えてくれました。特に印象的だったのは、多様性という言葉が使われるときに、同時に「封じ込め」が行われていることがあるという問題です。「私たち」を豊かにしてくれる多様性は寛容されたり、調和の姿勢をとるが、一方で、私たちを脅かす存在はすぐに排除されて、隠されてしまう現状についてのお話は印象に残りました。どちらの立場に立って講ずるのか、中心に立つ「私たち」が決めてしまっているということの危険性を自覚することができました。

ALTはじまり。白髪短髪で、青いワイシャツ、メガネをかけた男性、岩渕先生が右手を振りながら語る様子。ALTおわり。

「多様性」というワードによって、既存の歴史的な構造的差別や不平等が帳消しになり、次第にハッピートークで語られがちな現状において、「若い世代の歴史感覚の薄さ」についての言及が個人的には、すごく胸に刺さりました。歴史を学ぶ重要性、安心して生活できているという「特権」を持っている僕は、これまで、歴史を軽視しがちで、こうした課題をあくまで他人事として認識していたということを省みるとても良い機会になりました。

ALTはじまり。岩渕先生も一緒にグループワークにはいり、議論をする様子。写真には先生の他に4名の参加者。ALTおわり。

 

第4回:誰による、誰の為のデザインなのか

第4回目のテーマはWhat should I have done at that time?:参加型デザイン・インクルーシブデザイン実践」。この回はワークショップがメインとなりました。SOLITのインクルーシブデザイン・参加型デザインの手法を事例に用いて、当事者がデザインに関与することと、当事者が意思決定権をもち主体的にリードしていくことの相違点を自らの身をもって体験しました。

 ただ当事者を入れて議論するのではない、ポイントは誰が意思決定を下しているのか。

デザインの必要性と重要性について、SOLIT代表の田中美咲が話をしました。田中は「デザインの権利」という観点からの話が印象的で、デザインというと、普段は広告やファッションなどの表層的なものに対して目が行きがちですが、それはあくまでデザインの結果に過ぎず、その背景では「誰が意思決定を下しているのか」「どのように決めたのか」といった構造が存在し、ひいては「誰が権利を持っているのか」という社会の中の権力構造とも密接に関わっていると言います。

その後は、事例としてSOLITバンクーバーファッションウィークにおけるデザインについて話しました。モデルをはじめとしたメンバーの一般公募からファッションショーに至るまでの全ての過程でインクルーシブデザインを実践していること、そして実際にショーで着用した全ての服が当事者の課題に対する解決策であるということが語られました!

ALTはじまり。黒いワンピースをきて、両手を合わせて語るSOLIT代表の田中美咲。大きなプロジェクターにスライドが投影されている。ALTおわり。

違いを味わうワークショップ

その後は、グループに分かれ、マイクロソフトの実際にあった働き方改革に関するケーススタディを題材にし、以下の2つの手法でデザインを行い、結果を比較するというワークショップでした!

1.インクルーシブデザイン

当事者が議論に参加し、みんなで課題解決に向けた施策を提案する

2.参加型デザイン

当事者に意思決定の権利があるという構造のもと、各グループのインスパイアラー(当事者)が議論をリードする

 

実際にやってみて印象的だったのは、同質性の高い集団にはいない「違う立場」の当事者がいると、働き方のケーススタディーにおいても、議題そのものを一度止まって考えるという時間が生まれたことです。例えば、若い世代のリードユーザーからは、出社そのものに懐疑的であったり、通いたくなるオフィス空間とはどんなものかなどが話題にあがったりもしました。

ひとつ目のインクルーシブデザインでは単に当事者の「何が困難か」に焦点が置かれていたように思えますが、ふたつ目の参加型デザインでは、その当事者の人としての声や生身の意見が出ていたように思いました。

ALTはじまり。グループワークで議論を重ねる参加者たち。笑顔で拍手をしている様子。ALTおわり。


第5回:仏教思想からD&Iを認識し、抽象の世界からの新しい発見を

5回目のテーマはJapan! Unlock new possibilities! :日本と海外の違い、日本ではどうすべきか」。これまでとは少し異なり、「仏教思想」という抽象的な観点で、実験寺院寳幢寺僧院長の松波龍源さんをオンラインでお招きしました、そして西洋と東洋の思考プロセスの相違を比較しながら、日本人に根付いた価値観の正体に迫りました!

ALTはじまり。京都から遠隔で登壇をしている龍源先生。曼荼羅の画像を背景にされ、白髪の髭に朱色の服を着ている。ALTおわり。

「個」対「個」の関係性、その中で慈悲と品格を持つ。

西洋と東洋の比較を持ち出し、実在論に基づく、カテゴライズされたそれぞれの「カテゴリーが併存している」状態という意味合いでのダイバーシティの認識と、そうではない東洋的な「自分と他者との関わり合い」という二つの構造がとても印象的でした。

カテゴライズされて、新しいジャンルがどんどん増えてゆく。それに伴い、新しい概念を知識として蓄えていく、僕にとってD&Iとはどこか学問的なイメージがありました。そのため、自分はどこか外側からD&Iを勉強しているような手触り感のなさを感じることもあったのですが、今回のお話を聞いて、その対象が自分とどう関わっているのか、自分はその対象とどう関わりたいのかという個々の間の関わり合いが極めて重要な意味合いを持っているということを再認識することができました!

今回はこれまでのセミナーとは少し異なり、皆さん、メモを書く手が止まり、ぼんやり宙を仰いだり、膝を打ったり、そんな時間でした!

ALTはじまり。メガネをかけ参加者に語りかけるファシリテーターのいしいし。参加者は彼を見つめて議論を重ねている様子。ALTおわり。


第6回:次なる一歩を共有し、実現させたる為の道筋を立てる

いよいよ最終回!第6回目のテーマは Then, what is first step for our society?  さて、私たちはまず何を実現するのか」。ゼミの締めくくりとして、みんなで全セッションを振り返りを行いました。そして、企業として何ができるのか、個人として何ができるのか、それに対する具体的な計画を共有しました!

参加者それぞれの振り返りと、ネクストアクションの発表

この時間では、事前に宿題として参加者に作成してもらったスライドを投影し、このゼミを終えて、自社でどんなアクションを起こすのか、そして自分は何ができるのか、を全員が共有しました。

「学んだことを同僚に伝える」といったアクションから「既存の事業の方向性を変える」というような大きなアクションを計画されている方もおり、異業種が交わっているからこそおもしろく、ワクワクする時間でした。そして、アクションプランや今の企業への問題提起などがパズルのように噛み合い、「それじゃあ一緒にやりませんか?」という化学反応が生まれていたこともめちゃくちゃいいなと思いました!

全6回を終えて

あっという間に6回が終わってしまい、僕の頭はまだ情報を整理しきれていません。

このゼミを通して、「D&I」そのものを問うてみたり、体験的に学んだり、哲学的な視点から捉え直してみたりと、D&Iをとにかく多角的に見つめ直しました。どのトピックも重要でしたが、特に印象に残っているのは、多様性を批判的に捉えるという議題において、多様性を都合の良いものとしてもてはやし、心地よくないものは排除するという構造です。これは僕自身、気づかぬうちにやってしまっていることでもあり、歴史感覚の希薄な若い世代にありがちなことだと感じ、自らを顧みる良い機会になりました。

 

ここでそれぞれが得た知見や新たな可能性は、机上の空論ではなく、それぞれの所属する社会とシームレスに関わるはずです。D&Iに取り組む中で不安になったり、指針を見失いそうになったりしたら、このゼミを思い出し、再び、地道に行動を起こし続ける。そして参加者がここで得た知見を企業に持ち帰り、各企業単位でこのような議論が生まれていくことで波紋のように社会に広まっていくのだと思います。

様々な企業の担当者が無邪気になり、議論し合うこの空間でSOLITのインターンとして、そして若者の当事者として参加できたことが何よりも嬉しいです。

SOLITでは、今後もD&Iに関する学びと実践の場を企画していきます。ご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。共に探求し続けてくださる仲間をお待ちしています。

 

 

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