国際障害者デーにひらく、小さな問い。 ―ZINE『Beyond Checkboxes』制作の背景を語る

国際障害者デーにひらく、小さな問い。 ―ZINE『Beyond Checkboxes』制作の背景を語る

目次

私たちSOLITは、日々さまざまな現場で、DE&Iを推進する担当者や当事者の方々と対話を続けています。そのなかで痛感するのは、「多様性」という言葉が広く知られる一方で、現場にいる人ほど疲弊し、孤立しやすい構造が生まれているという現実です。

制度は増え、研修も拡充し、企業のリスク管理も強化されている。それでも、「胸を張って前に進めている」と言い切れる担当者は決して多くありません。そんな相談を受け続ける中で、私たち自身にも一つの問いが芽生えました。

チェックリストを埋めることではなく、関係性そのものに向き合うための言葉を、私たちは持てているだろうか。

その問いに向き合いながら制作したのが、今回のZINE『Beyond Checkboxes』です。正解を示すHOW TOではなく、現場で揺れ続ける人たちと「一緒に立ち止まり、考える」ための一冊にしたい。そんな思いで、私たちはページを重ねていきました。

本記事では、

  • なぜこのZINEが必要だったのか
  • どんな背景から生まれた問いなのか
  • 誰に届けたいのか

をお伝えしたいと思います。
どうか、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

 

DE&Iの“正解探し”が生む疲弊

DE&Iの実務は、しばしば「唯一の正解」を求められる場に置かれます。

ジェンダー表現の最適解、当事者支援の“理想形”、研修プログラムの完璧さ。社会的にセンシティブなテーマほど、間違えたくないという誠実さが働くのは当然のこと。しかしそこで起きているのはしばしば、「正解の正解を探す」状態。そしてその迷路に入り込むと、チェックボックスを埋めることが目的化し、個々の関係性や対話が置き去りになってしまいます。

ZINE本文でも触れているように、日本のDE&Iは「遅れている/進んでいる」という直線的な物差しでは語れません。いま必要なのは、日本の文化土壌・言語・関係性の感覚から、DE&Iを再定義していく視点です。私たちが現場で見てきた疲れの多くは、この「輸入されたフレーム」と「現場のリアル」の摩擦から生まれています。

 

日本の現場に合う言語と視点を

日本には、もともと関係性を大切にする文化があります。

「おかげさま」
「お互いさま」
そして「縁」。

こうした言葉が示すように、目に見えないつながりへの感度は、本来とても豊かです。しかし、DE&Iの議論は英語圏的なカテゴリー・タグ・属性の整理から入ることが多く、その枠の中に入りきらない“揺らぎ”や“曖昧さ”は、しばしば見えにくくなってしまいます。ZINEでは、この“関係性の感覚”を大切にしながら、「日本の現場から問い直す DE&I」をテーマにしています。それは「日本独自主義」という意味ではなく、「翻訳」ではなく「編み直し」をする視点です。

本当に大切なものを、こぼさずに前に進むために。

 

チェックリストだけでは変わらないから、問いを。

ZINEタイトル『Beyond Checkboxes』には、制作チーム全員の実感が込められています。チェックリストやHOW TOに落とし込むことで得られる安心感は、確かにあります。でも同時に、その“枠”からこぼれ落ちるものもある。

その隙間にあるのは、

  • 苦しさ
  • 迷い
  • 孤独
  • 小さな声
  • 気づかれない痛み
  • 言葉にしづらい関係性のひずみ

そして、そこにこそ「変化の芽」がある。

だからこそ私たちは、
“答え”ではなく、“問い”を投げかけ、共に考えていくためのZINE
を作成しました。

これは、専門家としての正解を提示する本ではありません。ZINE本文でも繰り返し書いているように、「現場の仲間としての問い」を共有する本なのです。

“エナジードリンク” を手放せない担当者へ

よくこのようなことを呟くDE&Iを推進する担当者と出会います。

多様性や働きやすさを語る私自身が、いちばん疲弊しています

まさに、このZINEはそうした現場の声に応えるためのものです。 エナジードリンクで無理やり走り続けるのではなく、自分の軸とペースを取り戻すための“静かなエネルギー” になれたらと願っています。

そしてこれは、制作チーム自身の体験でもあります。ZINEのあとがきにもあるように、私たちも何度も心が折れそうになりながら、それでも仲間と背中をさすり合い、問い続けてきました。

ZINEの詳細と、ご予約について

『Beyond Checkboxes』は、紙版とデジタル版(Kindle)の2種類でお届けします。

  • サイズ:H240×W171mm
  • ページ数:約130ページ(日本語・英語併記)
  • 価格:4,500円(税込)
  • 発送開始:2026年1月順次配送予定

Beyond Checkboxesの購入はこちらから

 

現場で悩む担当者のために、
チームでの対話の入り口として、
あるいは自分のペースを取り戻す一冊として、
思い思いの形で迎え入れていただければ嬉しいです。

 

国際障害者デーに寄せて

12月3日、国際障害者デー。
世界が「障害」や「インクルージョン」に改めて向き合うこの日に、
私たちは『Beyond Checkboxes』を公開します。

完璧な答えを持つことはできない。
でも、よりよい問いを持ち直すことはできる。

その小さな問いが、明日の現場で誰かを救うかもしれない。
その対話が、組織の空気を変えるかもしれない。

 

グリーンのチェックマークをモチーフにしたB5サイズの本

 

私たちは微力かもしれない――でも無力ではない。

そんな思いを込めて、この一冊をあなたに届けます。

どうか、あなた自身の言葉と現場で、問いを続けていけますように。

 

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