「好きなものを選ぶ」を叶えるインクルーシブデザインプロダクト

目次

  1. 医療・福祉×ファッションの可能性を信じて始まった連携
  2. 「Inclusive Design Products Marche」を開催しました!
  3. インクルーシブデザインプロダクトって?
  4. 出展いただいた3社の想いとプロダクト紹介
  5. インクルーシブデザインの可能性

2021年8月25日、新型コロナウイルスの影響を受けて延期を重ねていた「インクルーシブデザインプロダクトマルシェ」を、東京都大田区池上にあるSANDo by WEMON PROJECTSさんご協力のもと、無事に開催することができました。出展してくださったみなさま、お越しくださったみなさま、ありがとうございました!

当日の様子とあわせて、出展企業のプロダクトについてもご紹介できればと思います。

当日の会場の外観。

「Inclusive Design Products Marche」を開催しました

身体の大きさや障がいの有無、年齢。 人は誰でも一人ひとり違っていて、それぞれの個性がとっても素敵で大切で。

そんな個が輝くようにデザインされたインクルーシブデザインプロダクトやテクニカルエイド(福祉用具)は今や日本中・世界中に多く誕生しています。しかし、そんなプロダクトとの接触機会は、病院やリハビリテーション施設などを通した連携事業者からの紹介や、時にWEBで検索して出てきたものなど、選択肢があっても知る機会は限られています。

好きで買った服や靴、家具にあわせて好みのテイストに出会うために。
もっと外に出歩きたくなるために。
いつか自分がそのプロダクトが必要になった時のために。
こだわりのある友人や家族が、気持ちよく選択できる選択肢をおしえてあげるために。

そこで、普段触れる機会のあまりない、素敵なインクルーシブデザインプロダクトやテクニカルエイドに直接触れ合えるイベントを、開催することにしました。

—Peatixイベントページ概要より引用

障害や身体的特徴を問わず、誰でも心地よく着ることができる服を目指して開発が始まった、私たちSOLITですが、開発を進める中で医療・福祉の現場の方の声を聞くことを始め、多くの先駆者の方々と出会い、たくさんの共感やお力添えをいただいてきました。

私たちの心が震えるほど素敵な、まさに「SO LIT!(それいいね!)」と声に出して自慢したくなるようなプロダクトを作られている方々の想いを伝えるため、直接出会い、プロダクトにも触れながら、暮らしの選択肢の中に取り入れていただけるような機会を作るため、今回の「Inclusive Design Products Marche」を開催することに決めました!

SOLITのチームが主体となってお声がけをおこない、新型コロナウイルスの感染状況を踏まえて延期を重ねつつ、完全予約制・時間ごとの人数制限を設け、検温や定期的な消毒のほかにマスク・ゴーグルの装着など、できうる限りの対策をおこなった上で開催させていただきました。

なんと、予約枠は開催日の1ヶ月前には満席となり、たくさんの方にご来場いただきながら、「素敵!」「すごく良い!」といった驚きや感動のリアクションを間近に見ることができ、私たちもとてもあたたかな気持ちにしていただく時間となりました。

会場の中から外の様子を写した写真。中では女性が男性に説明を。外では男性数人が車椅子を押している。

インクルーシブデザインプロダクトって?

代表の田中が商品の前で男性に説明している様子

耳馴染みのない方もいるかもしれない「インクルーシブデザインプロダクト」。

「インクルーシブデザイン」とは、障害のある方や高齢の方、または外国籍の方など、これまでデザインをおこなう際に配慮されづらかった人々にもプロセスの上流に参画してもらい、共に作り上げていくというデザインの手法です。

SOLITも、今回ご一緒していただいた3社のプロダクトも、そうした多様な人々の声を取り入れたデザイン開発プロセスを大切にした「インクルーシブデザインプロダクト」だといえます。

その中でも今回はSOLITと目指す未来が近く、とても素敵だなと思っていた3社にお声がけさせていただき、テクニカルエイド(福祉用具)を中心に展示し、障害のある方の暮らしの中で困難を減らすだけではなく、より良く、豊かな毎日を過ごすための一助となるプロダクトをご紹介させていただきました。

障害の有無を問わず、実際に触れた方の多くがこれまでのプロダクトとの違いに驚き、「祖母のために」「友人のために」「いつかの自分のために」と熱心にお話を聞いてくださったのが印象的でした。

出展いただいた3社の想いとプロダクト紹介

Vilhelm Hertz Japan(ヴィルヘルム・ハーツ・ジャパン)

Vilhelm Hertzの杖が並んでいる写真


デンマーク、シェラン島の北 Hundested という小さな田舎町にて、「福祉用具にも美しさを」という想いのもと、使う人にあったサイズを提供するためにカスタムオーダーで杖を製作する工房。愛着を持ち長く使ってもらうことを意識して、職人の手によってひとつひとつ丁寧に作られる杖は、機能性が高いだけではなく、体に馴染み、日常の風景にも溶け込むような逸品。
WEBサイト:https://www.vilhelm-hertz-japan.jp/


「デンマークには、ひとつの家具を孫の代まで使い続けるといった文化があります」

日本でプロダクトデザインや開発をおこなう仕事を経て、「物を大切にする」文化について想いを寄せるようになった宮田さん。デンマークに渡り、フォルケホイスコーレという北欧独自の教育機関でモノづくりと福祉の繋がりを探る中で出会ったのが、木の風合いの美しい「ヴィルヘルム・ハーツ」の杖でした。

「欧米では、高齢になって足が痛くなってきたり不具合を感じるようになったら、ロフストランド・クラッチという腕で支えるタイプの杖を使うことが多いです。日本でよく見かけるT字の杖は、歩行時のバランスが崩れた時に地面について使用する歩行補助具ですが、ロフストランド・クラッチは、痛みや不具合がある箇所にかかる体重を減らす福祉用具として使われます」

実際に商品の杖を使っている写真

木や革といった自然から譲り受けた素材を中心に、体重をかけた時に程よくたわむカーボンファイバーロッドを使い、身体的負担を減らしたヴィルヘルム・ハーツの杖。

街並みにも馴染む、美しく味わいのある佇まいに衝撃を受け、「何でもするからここで働かせてほしい」という直談判のもと、宮田さんは工房に住み込みで働き始めたといいます。「日本でこの杖を広めることはお前に任せた」という言葉を受けて、その後2019年から日本で唯一の窓口を担うことになりました。

「福祉用具であるということは、その人の人生の一部としてそばに在るということ。その人に馴染んで消えちゃう、暮らしに溶け込むようなプロダクトがいいと思っています。実際に触ってみてもらって、良さを感じてもらって、その人が『良いな』と感じた理由を聞きながら、その感覚を大切にしていきましょうと対話する。そうしたやりとりを経ながら、それぞれにとっての最適解を見つけていくのがヴィルヘルム・ハーツのやり方です」

もともと、デンマークに暮らす一人の女性に杖を作りなおすところから始まったヴィルヘルム・ハーツ。目指すのは、「その人がその人らしく1日でも長く自分の身体で動けるようになる、動きたくなる」ための存在になることだといいます。

「機能性はもちろん、これを使うことで誰かに自慢したくなったり、歩いている人に『それいいね、素敵だね』と言われて会話が生まれたり。道具の満足感だけじゃなく自分の人生の満足感にもつながって、より長く人生を楽しめるようになるためのものづくりを大切にしています。自分の体にちゃんと合ったものを身につけていないと、身体やメンタルのバランスは崩れていってしまう。だからこそオーダーメイドで、その人が過ごす毎日にとってベストな提案をするということは大切だなと考えます。」

男性と女性が話している会場内の様子

そのために、日本では採寸と納品時に、身体を見るスペシャリストである理学療法士や作業療法士の方にもご協力頂く工夫を取り入れたという宮田さん。

今回のマルシェ出展に際して、「自分は杖を売りたいというよりも、この思想や、デンマークのものづくりの姿勢を知ってほしいと気づいた」とお話してくださいました。

人生を豊かに過ごすためのひとつの選択肢として知ってもらいながら、今現在杖の必要がない人たちにとっても、将来の選択肢のひとつになるようなプロダクトとして。親や祖父母、お世話になっている人や、自分自身の未来に向けて想いを馳せるひとつのきっかけになるプロダクトです。

マイスター靴工房KAJIYA

メジャーと靴の製図写真


「歩く喜びをあなたに」をテーマに創業から40年、様々な悩みや問題をかかえる人々に、インソールや靴などのフットウェアを提供。足の変形などによって市販の靴では歩きづらい、歩けない等の機能的障害や、靴型装具はごつくて、黒くて、ダサいから履きたくない等の心理的障害を、一人一人のニーズに寄り添ってオーダーメイドで作っていくことで取り除き、履く人の可能性を広げるサポートをおこなっている。
WEBサイト:https://kutsu-kajiya.com/


「私たちは二つのバリアフリーを目指しています。社会の機能的側面のバリアフリーと、心理的側面でのバリアフリーです」

そう語るのは、マイスター靴工房KAJIYAの代表でもあり、義肢装具士・ドイツ整形外科靴マイスターでもある中井さん。日本にはまだまだ少ないマイスターの資格を取得するため、9年間ドイツに渡って修行された経験を持ちます。

KAJIYAのブース前で説明を聞く女性の写真

「もともと靴が好きで靴屋になろうかなと思っていましたが、偶然テレビで義肢装具士という存在を知って、面白そうだなと思ったんです。ドイツでは歯が痛くなった時に歯医者に行くような感覚で、マイスターのいるお店へ行って足や靴について相談するという文化があります。日本でもそういう文化や感覚が浸透したらいいなと考えているところはありますね」

社会の機能的側面のバリアフリーと、心理的側面のバリアフリー。機能的側面とは、歩けない人が歩ける、もっと長い距離歩ける、立てない人が立てるようになるといったまさに機能面の部分。それとは別に、「心理的側面のバリアフリー」も重要であると中井さんはおっしゃいます。

「これまでの義肢装具には選択肢が少なく、黒くてゴツくてダサいというようなイメージが定着していました。私たちの工房では『どんな靴を履きたいですか?』と尋ねるところから始めるのですが、そう問われてぽかんとされる方も多いんです。それくらい、自由に選ぶということから遠い世界になっているのかもしれません」

KAJIYAの靴

身体的に必要だからと一般的な義肢装具を使ってみたものの、好きになれずに使うのをやめてしまった。けれどやはり生活には必要だから……という葛藤を抱えて、中井さんの工房にたどり着く方もいるのだそう。

「お客様の中には、靴屋に人生で一度も行ったことがないという方もいます。自分が履けるものがある場所ではないから、自分の人生には関係がないと思ってしまうんですね。だけどお話を聞いていくと、当たり前ですがそれぞれ好みもあれば履いてみたいという憧れもある。『じゃあ、それを作りましょう』と提案するのが私たちの役目です」

当日のKAJIYAのブースの様子。商品が複数並び、後ろには生地見本も並べられている

子どもから大人まで、変化する足のサイズや機能性に合わせて何十年とお付き合いする関係になることも多いという中井さん。人生に寄り添い、見守りながら靴を作り続ける姿は、まさにドイツのマイスターの存在を思わせます。

「ユーザーとの会話を頭に浮かべながら木型を作る工程が一番好きなんですが、その人の好みってこんな感じかなと考えながら作って、実際にフィットしたものを作れた時には思わずガッツポーズしたくなるくらい嬉しいです。私たちが思うお洒落なものを作るのではなく、その人の描く好みや理想の形に私たちが“はめさせてもらう”感覚で作っています」

今後は日本でもドイツのマイスターの文化を広められるように、人の育成や環境づくりにも力を入れていくと語る中井さん。プロフェッショナルの力を借りて、どんな人も自分の「好き」を選ぶことを諦めずにいられる世界の実現に向かっていきます。

COLORS

COLORSの車椅子


大田区町工場×介護という異業種がタッグを組み、どんな方でも気軽に操作でき、外出が楽しめる直進性と軽快性を可能にした介助式車いす「COLORS」を開発。特許取得とあわせて第31回大田区中小企業新製品・新製品コンクール最優秀賞も受賞し、車椅子に革命を起こす。10年間にわたって、子どもから高齢者まで地域の暮らしを支援してきた福祉事業者の現場ならではの目線で、新しい価値を創造している。
WEBサイト:http://www.colors-g.co.jp/


「プロの介助がなくても家族と一緒に出かけられる、もっと家族と出かけたくなる車椅子を目指しました」

福祉用具専門相談員であり、ヘルパー等の資格も持つ開発担当の飯沼さんが実演しながら教えてくださったのは、一般的な車椅子とは違うCOLORSの特徴です。

「一般的な車椅子とはタイヤの位置を変えていることで、座面にかかる体重を上手く使い、女性やお子さん、あるいは高齢の方であっても、段差を越える時などに簡単に車椅子の前輪を浮かすことができるようになっています。これまでの車椅子はどうしても『押すこと』にさえ体力が必要になってしまうものが多く、介助側にとっても大変で外出を躊躇してしまうというケースがありました」

段差以外にも、街中では道に水勾配(みずこうばい)と呼ばれる水捌けのための傾斜がかかっていることが多く、車椅子をただ真っ直ぐに押すだけでも相当の力を込めなければならないというケースが多いと飯沼さんは語ります。

「前輪を固定しているのもCOLORSの特徴の一つで、そうした水勾配のある街中の道を少ない力で進みやすくするための工夫になっています」

マルシェで実際に車椅子を動かしてみる体験をした皆さんが、揃って「えっ、軽い!」「すごい!」と感動の声をあげていたのが印象的なCOLORS。初めて車椅子をさわる人でも、すぐにコツを掴んでひょいっと段差をこえ、すいすいと前に進むことができるようになっていました。

会場でCOLORSの車椅子を実際に試す女性の写真

「私たちはもともと介護事業をおこなっていることもあり、実際に毎日を過ごす中で感じられる不便や困りごとの声を聞かせていただくことが多いです。ご家族やお孫さんと一緒にいろいろな思い出を作りたいと思っていても、介助をしてもらう側として申し訳なく遠慮してしまうといった声も聞きます。一方で介助をするご家族も、本当はもっといろいろな場所へ一緒に行きたいけれど、自分では車椅子が上手く扱えないからと躊躇してしまう。そんな状況を変えたくて、ただ移動をしやすくする以上に、“豊かな人生を過ごすための車椅子”を作りたいと思いました」

介護事業をおこなう株式会社カラーズのある東京都大田区は、京浜工業地帯を有する工業の街。開発時にも大田区の町工場さんと連携し、その確かな技術力を借りて開発をすすめたそうです。

「お互いに話す言語が違う中での開発は大変でしたが、だからこそこれまでの車椅子とは違うものが生まれたのだとも思います。今回はプロダクトデザインにも大田区で活動されるデザイナーさんに入っていただいたり、大田区出身の服飾デザイナー伊東弘子氏とコラボレーションして背もたれカバーを作ったりもしましたが、福祉領域のプロダクトはカラーやデザインについてもできることがまだまだあるなと感じます。会社としても、オープンイノベーションを通じて様々な職種と連携し、外出することがもっと楽しくなる、自分にとってのお気に入りになる、毎日が楽しくなるというようなデザインを追求していきたいです」

COLORSの車椅子に座る人と、押す人、説明をしている人が話している写真

株式会社カラーズ代表の田尻さんは、介護業界で10年事業を続けてこられた方。長年従事されているからこそ見える業界の課題も踏まえ、今後もさまざまな「外」との連携を続けていきたいと考えられています。

「私たちは『地域や社会のニーズにこたえていく』『多世代共生の街づくり』をミッションとしています。子どもから高齢者まで多世代の生活を知っているという強みを活かし、有形無形にこだわらず付加価値のあるサービスを創り出していきたいなと思います」

家族とともに過ごす時間を創出してくれる車椅子「COLORS」。介護保険を適用することで月々1000円以下でレンタルすることも可能にできるよう、現在生産体制を構築しているというお話もありました。 コロナ禍で外出がしづらい世の中になった今、平時から外出しづらいと感じていた方々はより大きな困難や孤独を抱えているかもしれません。そうした人たちにとっても毎日が豊かになるような、そんな一助になるプロダクトなのではないかと感じます。

インクルーシブデザインの可能性

当日スタッフとして参加したSOLITメンバーゆっきょ

今回のイベントの出展企業は、共通して「障害のあるなしや身体的特徴に関係なく、誰もが豊かな人生を自分らしく生きられる社会」のためにプロダクトを作っていました。

「不便なく毎日を過ごせる」にとどまらず、「毎日を楽しく過ごせる」「毎日を生き生きと過ごせる」ための選択肢を全ての人に届けるために、私たちは活動を続けていきます。

こうしたインクルーシブデザインプロダクトは、やはり手にとって、触れて、実際に体験していただくことでこそその価値や心地よさを感じることができます。それは、インクルーシブデザインプロダクトやテクニカルエイドというものが、誰かの暮らしの一部になり、時に身体の一部として共に過ごしていくものになるからこその「体と共鳴する設計」になっているからなのかもしれません。

コロナ禍でなかなかリアルイベントの開催が難しい昨今ですが、今回のように会場としてのご協力先や、新たなコラボレーション先、メディア取材など、共に「インクルーシブデザインプロダクト」や「テクニカルエイド」といった選択肢を広めていくことのできる仲間は常に募集しています。

また、私たちSOLITが連携することで叶えられることがありましたら、ぜひ仲間になりましょう。

SOLITが描くオールインクルーシブな社会の実現のため、これからもこうした選択肢を知ってもらう場や試着会など、たくさんの機会を創出していければと考えています。

ボランティアスタッフとして関わりたいという方なども、ぜひお気軽にお声がけください。

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