わたしたちの病院服、つくります。/ イベントレポ

目次

  1. 医療・福祉×ファッションの可能性を信じて始まった連携
  2. 開発チームとイベント登壇者
  3. 「第三の病院服」をつくります
  4. 医療・福祉従事者として考える「ファッション」とは
  5. 第三の病院服、開発のこれから

医療・福祉×ファッションの可能性を信じて始まった連携

2021年8月5日。猛暑が続く中、オンラインにて「わたしたちの病院服、つくります。/ 医療・福祉×ファッションの可能性」というイベントを開催しました。
今回のイベントは、オールインクルーシブファッションを扱う私たちSOLITと、岸和田リハビリテーション病院・SDX研究所の共催でおこなわれています。

リハビリテーションを専門に「あきらめない医療」をモットーとして運営する、医療法人えいしん会 岸和田リハビリテーション病院。この度、医療・福祉のケアの範囲を広げ、「ファッション」からのアプローチも開始します。

病院の入院・訪問患者さま向けに、これまでは機能性や運用のしやすさを重視したレンタルの病院服・リハビリテーション服を提供してきましたが、「着られる」「着せやすい」ことを念頭に置いてきた反面、「着たくなる」「着て出歩きたくなる」といった気持ちや、その心の変化による社会参加のケアまで手が回りきっていなかったように思います。

そこで、岸和田リハビリテーション病院では、入院・訪問患者さまと医師・看護師・セラピスト、そしてオールインクルーシブファッションサービスを運営するSOLIT株式会社と連携し、業界を超えて多業種・多職種の協働をもって、企画段階から多様な人を巻き込んだ「私たちの病院服」を開発します。

—Peatixイベントページ概要より引用

医療・福祉×ファッションの可能性とは何なのか。70名ほどの方が参加してくださったイベントの様子を交えながら、皆さんにもそのエッセンスをお伝えできればと思います。

開発チームとイベント登壇者

左上から岸和田リハビリテーション病院 澤井康平、岸和田リハビリテーション病院 奥間健太郎、岸和田リハビリテーション病院 升田遥夏、SDX研究所 大門恭平、SOLIT, Inc 伊藤ゆきこ、SOLIT, Inc 三原いつお、SOLIT, Inc 田中美咲 のサムネイルが掲載された当日スライド

医療・福祉の分野、ファッションの分野の垣根を超えて、「医療・福祉×ファッション」の可能性について語りつくす登壇者はこのようなメンバーでした。
今回のコラボレーションプロジェクトについても、こうした現場の視点をもつプロフェッショナルの皆さんと一緒に推進していきます。

大門恭平

元岸和田リハビリテーション病院 リハビリテーションセンター科長、現在は医療法人生和会グループ SDX研究所、SOLIT,Inc.プロボノとして活動。リハビリテーション領域の様々な多様性を拡張する取り組みを実践。

澤井康平

岸和田リハビリテーション病院 リハビリテーションセンター科長 理学療法士。回復期リハビリテーション病院および訪問や外来での臨床経験を経て、今年度からは管理職という新たな立場。患者さま、スタッフ、地域の人々から「選ばれる病院」を目指した組織づくりを実践中。

奥間健太郎

岸和田リハビリテーション病院 訪問リハビリ主任 理学療法士。訪問リハビリを通して、社会参加のあり方や地域における課題を解決し、『その人らしく生活できる地域』を目指す。

升田遥夏

岸和田リハビリテーション病院 作業療法士。回復期リハビリテーション病棟にて、日常生活動作の再獲得・社会復帰に向けてリハビリを提供している。患者さまの「やりたい!」をともに考え、ともに歩むことをモットーに日々の臨床に取り組んでいる。

田中美咲

SOLIT,Inc.代表取締役。「サステナビリティ」と「インクルーシブ」をいかにして共存させるのか、をテーマとして日々研究開発・社会実装を行い続ける連続社会起業家。

三原いつお

SOLIT,Inc. ファッションデザイナー・生産管理。 アパレル企業に勤めながら、未来の子どもたちに自信を持ってアパレルで働くということを薦められるよう尽力する。

伊藤ゆきこ

SOLIT,Inc. カスタマーサクセス部門・ディレクション担当。フリーの鍼灸あんまマッサージ師での臨床の現場経験と、東洋医療の啓発を行う社会起業経験者としての両輪の視点を持つ。

「第三の病院服」をつくります

まずはSOLIT代表の田中美咲から、今回のコラボレーションの始まりについて紹介しました。

SDX研究所 北裏所長「今のリハビリテーション服、ダサくない?」、岸リハ 石川病院長「”あきらめない医療”という病院の理念からもみんなで本当に着たい病院服を作ろう」、SDX研究所 大門さん「(着せやすさ・着やすいかどうかを重要視して患者さんのファッションを諦めてましたかも)」、SOLIT代表 田中「インクルーシブファッションブランドSOLITと一緒に作ってみませんか」というやりとりの流れを画像にしたもの

(はじめは、誰かの一言から。そして協働へとつながったイメージ図)

「あきらめない医療」というコンセプトをもつ岸和田リハビリテーション病院の皆さんと、リハビリテーション分野のDXを推進するSDX研究所、障害の有無や身体的特徴を問わず着ることができる服を開発するSOLITが出会い、始まった今回のプロジェクト。

これまでの病院服は、どうしても「着脱のしやすさ」といった機能性を重視して開発され、デザインや着心地のよさ、心地よさからくる「感情への影響」という部分について議論されることはあまりありませんでした。しかし、「おしゃれをしたい」という欲求は年齢を問わず年々上昇しているというデータもあるのが現状です。

“おしゃれをしたい” 内閣府が全国の60歳以上の男女を対象とした平成26年度の意識調査によると、過去15年間で16%も増加し、関心のない人は20%も減少した

入院されている方にとっても、退院後に生活しながら通院をされる方にとっても、「衣服」は毎日目にして、身に付けて、直接肌に触れ、自分自身を構成する一部ともなるものです。心地よさや感情への影響を考慮した病院服を開発することは、その人の人生を照らし、社会参加を促すことにも繋がるのではないかという希望を抱き、今回のプロジェクトは始まりました。

医療・福祉従事者として考える「ファッション」とは

リハビリテーションが目指すものは、「障害を持った方が、可能な限りもとの生活を取り戻すこと」。

リハビリと聞くと歩行訓練など身体的な回復をイメージされやすいかもしれませんが、実際は買い物や趣味・仕事といった社会参加や、その人が本来持っているその人らしさを取り戻すというところまでケアすることを目指していると、岸和田リハビリテーション病院の澤井さんはおっしゃいます。

当日のオンラインイベントの様子(zoomのスクリーンショット)

(岸和田リハビリテーション病院の澤井さんが取り組みを紹介)

これまでの病院服は着脱のしやすさや、排泄補助のしやすさ、麻痺や認知機能障害のある方でも負担なく生活ができるといったことを優先して選ばれてきたそうです。

通常手に入る衣類だと、ボタンがとめられなかったり、前後ろの判断がしにくかったり、ズレ落ちてしまいやすかったりといった課題があり、病院服や退院後に身に付けていただく衣類についてもどうしても限られた選択肢から選ばざるをえなかったのも事実だそう。

データから見る障害者・高齢者の衣服の図、当事者:既製服は合わないにも関わらず、既製服で対応してきた傾向が多い

(患者さんや高齢者の方の6割くらいは体に合わない既製服で対応している現状がある)

「ワンピースが着たい」
「ロングスカートが着たい」

患者さんからそんな声をいただくことがあっても、安全性や機能性を考慮してどうしても「着やすい服」を提案せざるを得ず、実現してあげられないもどかしさを感じることも多いのが現状だったという澤井さん。
現場で日々患者さんと向き合うからこそ感じる課題を、どうにか乗り越えたい。「さまざまな制限はあるけれど、それでもその人らしさを追求することを諦めたくない」という澤井さん達の想いを持って、今回の病院服開発がおこなわれています。

身体障害者の衣服の役割

(衣服は身体障害者の移動能力やセルフケア能力に影響を及ぼすという研究結果も出ている)

第三の病院服、開発のこれから

続いては、SOLITと岸和田リハビリテーション病院のメンバーによるトークセッション形式にて病院服開発のこれからについてご紹介をします。

zoomでのひと場面の様子

Q.入院中と退院後それぞれの現場で感じる衣服の課題と、ファッションができることとは何だろう?

升田:入院中の服については、どうしても見た目や素材に課題を感じます。素材もかためで、普段身に付けていた服とはかけ離れてしまうという課題もあると思います。選択肢が少なく、その人らしさの表現にはなかなかつながりづらいです。

奥間:退院後についても同じで、「着たい服」を着ることができない現状はあると思います。長く障害や病気の症状と付き合う中で、自分のできることとできないことを線引きしてしまっている方が多く、その選択の中に「着たい服を楽しんで選ぶ」ということは入っていないのではないかと感じます。

三原:これまでできたことができなくなってしまった状態にある人たちに、「ファッション」という文脈から提供できるのはやっぱり「やりたい」という気持ちの後押しなのかなと思っています。「この服を着て誰かに会いたい」とか、「あそこに行きたい」といった力を湧き上がらせるものになるといいなと思います。

奥間:セラピストとしても、ファッションはその人の力を引き出すことにも繋がるんじゃないかと感じています。可能性を広げるという意味でも、とても楽しみです。

升田:先日病院でプロトタイプを試着していただいたときの、「これだったら家族にも恥ずかしくなく会える」という患者さんの声が忘れられないです。その人らしさをもっと引き出せるのがファッションの力なのかなとその時に思いました。

三原:機能性や着やすさを考えながらプロトタイプを開発して持って行きましたが、患者さんから実際に触ってみて「わたしこういう素材好きだった」「こういう色がいい」といった声をたくさんいただいて、単純に機能だけの話ではない部分でできること・考えることが必要だなと感じています。

Q.「第三の病院服」のこれからについて

三原:前回プロトタイプを試着してみていただいて、下半身用の服は課題が多く見つかりました。難しいなと思いつつも、よくある補助具のように「補助のためにこれをつけました」というものではなく、「ファッション」としてデザインを完成させたいなと感じています。入院されている方にとっても退院後の方にとっても、モチベーションを上げるアイテムにしていきたいですね。

伊藤:現場の目線から、「ここだけは大事にしたい」というポイントはありますか?

升田:片麻痺の方が多いので、やはり着やすさは必要かなと思います。あとは認知症の方が混乱してしまわないように、ある程度簡単に身に付けられることは大切かもしれません。

奥間:外に出たいという気持ちが溢れ出すようなデザインだと嬉しいですね。この服を見せびらかしたいと思えるようなものになるといいなと思います。

今後のスケジュールの図

(第三の病院服開発の今後のスケジュール)

すでに始めていたり、じわじわやろうと思っていることの図

(医療・福祉×ファッションで今後実現していきたい未来。「ファッション外来」などの取り組みも)

「社会参加」がひとつのキーワードかもしれないという声も出た今回のイベント。たとえ重い障害がある方でも、身に着ける服ひとつでその場の空気を作ったり、演出したり、自分の人柄を伝えるアクションにつなげることができるのかもしれません。

日本ではまだまだ「医療・福祉×ファッション」のとりくみや研究が進んでいない現状がある中で、おそらく初の試みとなる「第三の病院服」開発。廃棄に繋がってしまわないような仕組み作りも含め、まだまだこれから作り上げていく部分も多いプロジェクトですが、より良いものにしていくために議論を重ねながら、それぞれの知恵を活かして開発していくことができればと思います。

「オールインクルーシブ経済園」を目指して活動するわたしたちSOLITの新たな一歩を、引き続き応援していただけると嬉しいです。

zoomでのひと場面の様子

岸和田リハビリテーション病院 instagram
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